「私は英語が話せます」
この言葉ほど、曖昧なものはありません。
挨拶ができるレベルなのか、ビジネス交渉ができるレベルなのか、あるいはシェイクスピアを原書で読めるレベルなのか。
私たち多言語学習者(Polyglot)には、自分の位置を客観的に測る「定規」が必要です。
それが、CEFR(セファール:ヨーロッパ言語共通参照枠)です。
今回は、このA1からC2までの6段階を、教科書的な定義ではなく、「実際のフィールドで何ができるか」という私の経験則に基づいて翻訳します。
そして、なぜ私が「B2こそが最強のゴールラインである」と考えるのか、その戦略についてお話ししましょう。
- Decoding: 教科書には載っていない、A1からC2の「リアルな肌感覚」
- Strategy: なぜ多言語学習者は「C2」ではなく「B2」を目指すべきなのか
- Method: 次のレベルへ登るための2つの鍵(インプットと資格試験)
Decoding the Levels – The 6 Stages

CEFRは大きく分けてA(基礎)、B(自立)、C(熟達)の3段階、さらに細分化して6段階に分かれます。
階段を一段ずつ登る感覚で見ていきましょう。
Basic User
A1 (Tourist) 〜 A2 (Survivor)。
挨拶、指差し、そしてサバイバル。新しい世界の「鍵」を手に入れるフェーズ。
Independent User
B1 (Traveler) 〜 B2 (Resident)。
Target Zone. トラブルに対処し、議論ができる「実用」の領域。コスパ最強のスイートスポット。
Proficient User
C1 (Professional) 〜 C2 (Philosopher)。
行間を読み、文化と同化する。ネイティブさえも凌駕する「教養」の沼。
A1: The Tourist
学習を始めたばかりの段階です。
定型的な挨拶、自己紹介、そして「これをお願いします」といったシンプルな要求ができます。
相手がゆっくり、はっきりと話してくれればコミュニケーションは成立しますが、基本的には「単語の羅列」と「ジェスチャー」で乗り切るフェーズ。
しかし、ここが全ての始まりです。
新しい世界へのパスポートを手に入れた状態と言えるでしょう。
A2: The Survivor
「サバイバル(生存)」が可能になるラインです。
買い物、道案内、家族の話など、身の回りの具体的な事柄についてやり取りができます。
文法ミスは多いですが、意思の疎通は可能。
個人的には、新しい言語を始めたらまずここを最速で目指すべきだと考えています。
A2があれば、現地で餓死することはありません。
B1: The Traveler
ここからが「中級」の入り口です。
旅行中に起こる大抵のトラブル(ホテルの予約変更や、病院での症状説明など)に対処できます。
自分の興味のある話題であれば、準備なしで会話に参加できるのもこのレベル。
ただし、ネイティブ同士の速い会話やスラングにはまだついていけず、もどかしさを感じる時期でもあります。
B2: The Resident
ここが多言語学習者の「スイートスポット(黄金地点)」です。
専門的な話題や抽象的な議論(社会問題や哲学など)についても、自分の意見を構築し、説得力を持って話せます。
テレビのニュースや映画も、大枠を理解して楽しめる。
ネイティブスピーカーとも「気を使わせずに」自然なテンポで会話ができるため、実質的な「ペラペラ」はこのラインを指すことが多いです。
C1: The Professional
ここからは「沼」の領域です。
広範で複雑な長いテキストを理解し、行間にある「含意(Implicit meaning)」までも汲み取れるようになります。
言葉に詰まることはほぼなく、社会的、学術的、職業的な場面で、柔軟かつ効果的に言語を使いこなせるレベル。
通訳や翻訳家を目指すならここがスタートラインです。
C2: The Philosopher
読み聞きしたほぼ全ての情報を、瞬時に、かつ正確に理解・再構成できるレベル。
これは単に「ネイティブ並み」という意味ではありません。
教養のないネイティブでもC2試験には落ちます。
高度な論理構成力と、文化的な背景知識まで完全に同化している状態。
10言語すべてでここを目指すのは、人生が数回あっても足りません。
Targeting the “B” Sweet Spot

私が提唱する戦略はシンプルです。
「まずはB2(あるいはBバンド)を目指し、そこに旗を立てろ」というものです。
経済学に「収穫逓減(ていげん)の法則」という言葉があります。 語学において、ゼロからB2に到達する労力が「50」だとすれば、B2からC1へ上げる労力は「100」、C1からC2へは「500」かかると言われています。 しかし、日常生活や友人との会話で得られる「楽しさ」や「実益」の8割は、B2の段階ですでに手に入っています。
私たちには時間がありません。
C2レベルの言語を1つ作る時間で、B2レベルの言語を3つ作ることができる。
世界を広げ、多くの文化と接続するというPolyglotの目的においては、「B2の量産」こそが最もROI(投資対効果)の高い戦略なのです。
How to Climb? – Two Keys

では、どうやって階段を登るのか。 気合や根性ではありません。
正しい「方法論」と「計測」が必要です。
The Input Hypothesis
「話す練習」だけでは、B2の壁は越えられません。
言語習得の大家、クラッシェン教授が提唱するように、必要なのは「理解可能なインプット(Comprehensible Input)」の大量摂取です。
自分の現在のレベルより「ほんの少しだけ難しい(i+1)」コンテンツを浴び続けること。
これについては、別記事の「メソッド編:インプット理論」で詳しく解説します。
2. Validation
自分のレベルは「自称」では測れません。
英語ならTOEICやIELTS、フランス語ならDELF/DALF。
これらは単なる肩書きではなく、自分の現在地を客観的に教えてくれるGPSです。
適切なタイミングで試験を受けることは、学習のペースメーカーとして機能します。
Conclusion – Where is your Flag?
CEFRという地図を持てば、霧の中を彷徨うことはなくなります。
全ての言語で山頂(C2)を目指す必要はありません。
「この言語は旅行で楽しみたいからA2でいい」「この言語は仕事で使うからC1まで行こう」。
そうやって自分でゴールを決め、地図の上に旗を立てること。
それこそが、多言語学習を長く、楽しく続けるための秘訣なのです。



